2025年12月から施行される日本の「スマホ新法」(改正電気通信事業法)は、世界で進むデジタルプラットフォーム規制の流れに沿った重要な法改正です。この法律により、iPhoneをはじめとするスマートフォンの利用環境が大きく変わろうとしています。欧州では既にデジタル市場法(DMA)が適用され、アップル社の対応が進められている中、日本独自の規制は何が同じで何が違うのでしょうか? 本記事では、海外の事例と比較しながら、法改正の核心部分を解説し、私たちの生活にどのような影響があるのかを詳しく探ります。

「スマホ新法」とは何か?世界の流れと連動する規制
「スマホ新法」とは、正式には「電気通信事業法の一部を改正する法律」であり、2025年12月に施行予定です。特に大型プラットフォーム事業者(アップルやグーグル)に対する競争促進(フェアな競争環境の整備)を目的としています。その核心は主に以下の3点です。
- OS側によるアプリ流通の制限禁止:ユーザーが公式アプリストア(App StoreやGoogle Play)以外からもアプリをインストール(サイドローディング)できるようにすること。
- 外部決済サービスの許可:アプリ内課金において、アップルやグーグル独自の決済システムの強制を禁止し、開発者が外部の決済サービスを利用できるようにすること。
- ユーザー選択肢の拡大:デフォルトアプリの変更や、OSやハードウェア機能へのより公平なアクセスを開発者に保証すること。
この法律は、欧州連合(EU)で2023年から適用されている「デジタル市場法(DMA)」と基本理念を同じくするものです。DMAも「ゲートキーパー」(市場を支配する大企業)に対し、サイドローディングの許可や自社サービス優遇の禁止などを義務付けています。
欧州(DMA)でのAppleの対応から見える未来と制限
EUでは、DMAへの対応として、AppleはiOS 17.4で歴史的な方針転換を余儀なくされました。その具体的内容は、日本の「スマホ新法」が目指す方向性を先取りするものとなっています。
- 代替アプリマーケットプレイスの許可:EU域内のiPhoneユーザーは、App Store以外の「代替アプリマーケットプレイス」からアプリをインストールできるようになりました。
- 代替ブラウザエンジンの使用許可:これまでSafariのWebKitエンジンが義務付けられていましたが、ChromeやFirefoxなど他のブラウザエンジンの使用が可能になり、真の選択肢が生まれました。
- NFC機能へのアクセス開放:これまでApple Payのみに限定されていたNFC(非接触通信)機能に、第三者の銀行アプリや決済アプリがアクセスできるようになり、決済の選択肢が広がりました。
重要な注意点:DMA適合による機能制限
しかし、DMAへの適合に伴い、AppleはEU域内では特定の便利機能の提供を停止しています。その理由として、第三者への技術公開がプライバリやセキュリティ上のリスクを高める可能性を挙げています。具体的には以下の機能がEUでは利用できません。
- 「iPhoneミラーリング」:iPhoneをMac上から操作できる機能
- 「Mac上でのLive Activities表示」:iPhoneやiPadのロック画面に表示されるリアルタイムの情報をMac上で表示する機能
- 「SharePlayの遠隔操作共有機能」:iPhoneやiPadのFaceTime通話中に、テレビ番組などを同期した状態でストリーム再生したり、相手のデバイスをリモートで操作する機能
このように、規制対応が必ずしも全ての面でユーザー利益につながるわけではなく、セキュリティ維持と機能提供の間でのトレードオフが生じている現実があります。
日本における対応はどうなる?
日本の「スマホ新法」はDMAと類似点が多いため、Appleの対応も欧州でのそれと同様の方向性になると予想されます。しかし、法律の細部や施行規則が異なるため、全く同じ対応になるとは限りません。日本独自の規制内容に合わせた調整が行われる可能性があります。特に、上記のような便利機能が日本でも制限されるかどうかは、今後の議論と調整次第と言えるでしょう。
iPhoneの「便利機能」は本当に使えなくなる?
結論から言えば、多くの便利機能が「使えなくなる」というよりは、「選択肢が増える」「使い方が変わる可能性がある」というのが正確な表現です。欧州の事例が示すように、従来の「閉じられた便利さ」から「開かれた選択肢のある便利さ」への転換点と言えるでしょう。ただし、上記のように一部の高度な連携機能については、提供が中止されるリスクもあることを認識しておく必要があります。
- セキュリティと利便性のトレードオフ:現在のiPhoneの高いセキュリティ性は、App Storeという閉じられた生態系(ウォールドガーデン)によって支えられている面があります。サイドローディングが可能になると、ユーザーはより多様なアプリをインストールできる代わりに、悪意のあるアプリをインストールするリスクも自己責任で負うことになります。
- 決済の利便性:アプリ内で課金する際、これまで必須だったApp Store決済だけでなく、クレジットカードやキャリア決済、その他のオンライン決済など、開発者が選んだ多様な決済方法が使えるようになる見込みです。
- デフォルトアプリの変更:例えば、標準メールアプリではなく、自分が好きなサードパーティのメールアプリをデフォルトに設定できるようになるなどの変更も想定されます。
私たちの生活はどう変わる? 想定されるメリットとデメリット
〈メリット〉
- アプリの選択肢と価格の多様化:App Storeに掲載するための厳格な審査がなくなるわけではありませんが、開発者はより自由にアプリを提供できる道が開けます。また、決済手数料が削減されることで、アプリの価格や課金アイテムの価格が下がるかもしれません。
- 決済方法とサービスの自由化:ユーザーが好きな決済手段を選べるようになり、利便性が向上します。
- カスタマイズ性の向上:端末をより自分好みに設定できるようになり、使い勝手が向上する可能性があります。
〈デメリット(懸念点)〉
- セキュリティリスクの増加:公式ストア以外からのアプリインストールは、マルウェアや詐欺アプリに遭遇するリスクが高まります。
- 統一感のある体験の分断:現在のiPhoneは、アプリのデザインや操作性、プライバシー保護までが統一されており、それが「iPhoneらしさ」や安心感につながっていました。新法後は、アプリごとの品質やセキュリティ対策、UIのバラつきが生じる可能性があります。
- 高度な連携機能の喪失リスク:欧州の例のように、DMA適合のために一部の高度な連携機能(iPhoneミラーリングなど)が提供されなくなる可能性があります。
まとめ
スマホ新法により、iPhoneの便利機能が「完全に使えなくなる」わけではなく、「世界の規制の流れに沿って、ユーザーの選択肢と自己責任が増える」時代に変わっていくと考えられます。ただし、一部の高度な連携機能については提供が中止されるリスクもあります。なぜなら、この法律は欧州のDMAと同様に「競争の促進」と「選択肢の拡大」を本質としており、海外ですでに進む「ゲートキーパー規制」の流れに日本も追随するためです。アップルはセキュリティとプライバシーを理由に、一部の機能提供を制限する選択肢を取り得ます。例えば、欧州ではAppleがNFC機能を開放したことで、銀行アプリで直接の決済が可能になりつつあります。その一方で、「iPhoneミラーリング」などの高度な連携機能は提供停止となっています。日本でも同様の変更があれば、決済の選択肢が広がる半面、現在享受しているシームレスなデバイス連携機能の一部が失われる可能性があるのです。したがって、2025年12月の施行後は、世界で進行するデジタル市場の構造変化の一部としてこの法改正を捉え、新たな選択肢の享受と引き換えに、一部の便利さが失われる可能性もあることを理解した上で、自分にとって最適な利用方法を選択していく姿勢が重要になるでしょう。
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